[天候]　両日とも晴れ

　１９９７年１０月２４、２５日、ＭＳＣＣ（マラスキ・シャワー・クライミング・クラブ）では、沢シーズンの終わりに際し、来年のリーダー養成のため岩登りの基礎トレーニングを湯河原の幕山岩壁群でおこなった。今回は特別講師として、往年の名サークル、ＭＦＣＣの主宰者、ケマ兄を迎えての共同合宿である。参加者は、おとぼけちゃん、にん２、一ノ瀬のＭＳＣＣの３人に、ハイキングという言葉につられて参加したスプーン、マリナ、イノキの３人、そしてケマ家の人々の総勢８人半、天気は晴朗、予報に出ていた寒波の影響も全くなく、秋の日差しの中、海を見下ろす幕山の岩壁でさわやかな２日間を過ごすことができた。

初日、高さ６ｍ程の小岩で岩場での基本ムーブを練習した後、２０ｍの壁に挑戦する。グレードは５・７（壁の登攀難度を示す指数で、５・１〜５・１４位の幅があり、数字が大きくなる程難しい）。ここでマリナ、スプーンの初心者女性陣は、泣き言ひとつ言わずにいとも簡単にツルツルの岩壁を笑いながら登ってしまい、なみなみならぬ度胸と才能を見せつけた。とうとう彼女たちもクライミングの楽しさを知ってしまったようである。一方一ノ瀬は、クライミンシューズが用意できず、昔使っていたバレーボールシューズを持ち込んでのトライである。このシューズのせいなのかどうか（？）、二人が登ったルートには手も足も出ず、もっぱらマリナ、スプーンに「そこじゃない！右のホールドだ！！」とか「上体を岩から離せ！」とか下から偉そうなことを言っていただけだった。

　ケマ兄は夕方の４時頃にやっと到着し、軽く１本登っただけで、あとは当然みんなで温泉、バーベキューというコース。そして、一ノ瀬の「では、ここでひと節。」といういつもの一言で、カラオケへとなだれ込み、結局２時間も歌いまくることとなったのだが、この夜今までのマラスキの集まりでは考えられないことが起こった。

　キャンプ場に戻ってのバーベキューは面倒臭いとの意見で、立ち寄り温泉付属の店のバーベキューコーナーでの宴会となったのだが、そこの支払いと、カラオケボックスの支払いの時、あろうことかお金が４、５千円も余ったのである。これは各自が勝手に３千円とか５千円とか気前良く出したためらしいのだが、わずかの金でヒーヒー言っていた昔とは隔世の感を禁じ得ない。思わず

”金満マラスキ　湯河原の夜”

とタイトルをつけてしまう。

　その後、キャンプ場へ戻り宴会の続きをしているところへ仕事で遅れたイノキが到着。一ノ瀬お手製の銀杏を炒って食べながら１２時半頃まで酒宴を張り消灯となった。

　翌日、朝ごはんを食べているところにおとぼけちゃんから電話が入る。マリナ嬢の御母堂の還暦祝いのために帰宅するイノキ夫妻と入れ代わりに、遅れて参加の彼を湯河原駅まで迎えに行き合流。２日目のトレーニングが始まった。

こんなメンバーで２日目

　まず１７ｍのフェイス。グレードはやはり５・７。おとぼけちゃんが早速リードしトップロープをかけ、続いてにん２が登る。それほど傾斜は急ではないが、方斜面で、落ちると左に大きく振られるいやらしい壁だ。今日も絶好調のスプーンも難なく登るが、ロワーダウン中に（ロワーダウン＝上から確保しているロープにぶらさがって下ること）スリップして空中で２回転半程まわってしまう。そして、問題の一ノ瀬。昨日と違って、今日はサイズが同じおとぼけちゃんのクライミングシューズを借りられたので言い訳はできない。しかしそこはやはりＭＳＣＣのメンバーのはしくれ、沢で鍛えた岩度胸でそれほどの不安も無く完登することができた。

　問題はこの後だ。最後に登った一ノ瀬がトップロープの支点を回収して降りてこなければならないのだが、彼にはその方法を教えていなかった。下からハラハラしながら見上げるメンバーからは一ノ瀬の姿は見えずに声しか聞こえない。「だいじょぶだいじょぶ」とか言っているが、一つ間違えば洒落にならない。普段の一ノ瀬を考えて不安になったにん２が叫ぶ。「一ノ瀬〜！場所柄をわきまえて慎重に行動しろ〜！！」壁にそって黒い固まりとなって落ちてくる一ノ瀬の姿が目にうかぶ。さすがのスプーンも不安顔だ。１５分もたっただろうか、懸垂下降のためのロープが落ちてきた。隣のルートを登ってきた人に一ノ瀬が「懸垂下降のセットはこれでいいんですか？」とか訊ねている。そんなことを知らない人間がいるわけがないところでそんなことを聞かれたその人もずいぶん面食らったことだろう。

いちのせの懸垂下降

岩の上に一ノ瀬の巨大なおしりが現れ、方斜面で振られないように大きく足をひろげて降りてくる。どうにかこうにか地上に辿り着き、みんなで胸をなでおろした。一ノ瀬の額ににじむ汗が全てを語っていた。

　待ちくたびれて他のルートに行っていたケマ兄の所に移動する。６ｍ程の短いルートだ。グレードは５・１０ａ。格段に難しい。最初にケマ兄が取り付きワンテンションで完登。続いておとぼけちゃん。２つめのヌンチャク（支点にロ・[プを掛けるためカラビナを２つひもでつないだもの）を掛けるが後がでない。ルートをはずれ左のクラックに逃げてなんとか３っつめのヌンチャクをセットするもロープをフックできずテンション。腕があがってしまい断念する。次ににん２。５度ほど落ちた後あきらめきれず登るが、やはりクラックに逃げてしまう。岩の割れ目に手をつっこんで何とか３っつ目にフックしてほうほうの体ではい上がる。このルートをワンテンションでクラックに逃げずに登れるなんて、ことクライミングに関しては、ケマ兄は偉大だ。

　この後、ケマ兄は渋滞を恐れてもう１本５・１０ルートを登って早々に引き上げていった。

　納得できないおとぼけちゃんは、昨日みんなで登った５・７のルートをリードして溜飲をさげ、一ノ瀬は、靴のせいで（？）登れなくてマリナ、スプーンに笑われたこのルートを登って誤解を解いたのだった。

　４人になったメンバーは湯河原駅で、電車で帰るおとぼけ、にん２組と、車で帰る一ノ瀬、スプーン組に別れて解散となり、今合宿を無事に終えたのでした。めでたし、めでたし。

ＰＳ　尚、今回の報告はおとぼけちゃんとの共著です。遊び足りなかった二人は、この後橋本駅から、真っ暗な藪をこいで山越えで家に帰りました。満足満足。